相変わらずで ごめんあそばせvv
         〜789女子高生シリーズ
 


     



収まらない憤怒のついで、
盗っ人もアタシらで捕まえましょかと乗り出したお嬢様がたが、
どれほど腹の虫が収まらなんだかは明らかで。
これもまた危険なその上、
微妙に違法なあれこれが絡んでいなくもなかったが。
当該少女がどれほど胸が潰れそうな想いでいるかを思えばと、
それへの代理のように本気で怒かっておいでの
お嬢様たちの心情も判らなくはなかったし。
事件の顛末がはやばやと判ったのも、彼女らの協力あってのことだし…と。
何よりも、くどいようだがまだ正式な立件はされていないから
警察官が手を出すのはむしろまずいかも知れぬ。
あれは誰だ、何の権限があってと逆上されての訴えられて。
実はまだ捜査が始まってないうちの前倒し、
取り押さえた刑事がどこの誰だったかが突き止められれば、
芋づる式に大元の騒動や 結局は当事者の素性も公的に暴かれかねぬ。

 『…という理由で丸投げしていいことではないのだが。』

今回だけは勘兵衛様も折れてくださってのこの運び。
制服以外にも一緒に何か盗まれていないか、
相手の手元にないかを まずは確かめんと。
落札した係官…実は征樹殿の取得したメアドで、
その辺りへ更なる欲があるよに働きかけてみて。
他の持ち物にカバンに名前でもあったら、
後腐れがあるやも知れないからと。
残りを全部買い上げようと持ちかけたところ、
そこは後ろ暗いのか、
夜更けの歩道橋の上なんていう、
ややこしい時間帯と場所での待ち合わせを言って来たのを。
こんの腐れ外道がと、
憤懣満載で叩きのめしたお嬢様がただった…というが、
実質上の事件へのフィナーレだったのであり。

 『正体不明の輩から、
  こづき回されるおっかなさ、思い知りましたか?』

 『女の子だからって舐めてかかると、
  こういう目にも遭うからね。』

こずかれちゃあ あわあわ逃げ回るのを、
そんな余力は残るような程度に
叩いたり足元を突っかけたりとして さんざんに振り回しての、
とうとう立ち上がれなくなったところを取り囲み。
ふふんといういかにもな居丈高な態度で、
胸高に腕を組んでの 見下ろして差し上げて。

 言っとくけど、これで終わりじゃあないからね。
 どうせ今回がお初じゃないんだろ? 今頃自宅はガサ入れにあってるよ。

 『だって、あんたが持ち逃げしたブツの持ち主、
  とある大物政治家のお嬢さんの“マブダチ”だもん。』

 『 ………え?』

息を引く音が聞こえたのへ、何てまあ筋書きどおりの反応かと、
怒り心頭だったにもかかわらず、
反射的に吹き出しそうになったのを何とか押さえ込み。

 『まだ判らないの?
  とっても怖い目に遭いましたって、
  被害に遭った子がお嬢さんへ泣きついたのを聞いて、
  そのパパが テッペン来たらしくてね。
  手飼いの恐持て…汚い仕事を任せるクチへ、
  草の根を分けても探せと言って探させて。
  それで、あんたの仕業ってのが割れたんだ。』

 『でもって それだけじゃあ収まらぬと、
  そっちも息の掛かった警察関係の
  お偉いさんのお尻を叩いてのガサ入れってわけよ。』

所轄の人たちは細かい事情なんて判らずにやってるんでしょうけど、
証拠がぞろぞろ出て来ちゃあ、もう ぐうの音も出ないわよね。
此処に来たのが あたしらみたいな顔触れだからって油断してた? ウケるー。
おっかないのが待ち受けてちゃあ、あんた近づきもしないで逃げたでしょうが。
ここまでこっちの思惑どおりになろうとはねぇ、と。
後は甲高いお声で“きゃはは、あはは…”とただただ笑い飛ばしてやったけれど。

 「どこまで聞こえていたものか、ですね。」
 「佐伯さんに手錠かけられても気がついてなかったみたいですし。」

体を動かせば少しは気が晴れるかと思ったけれど、と。
ここだけ訊いてりゃあ、
それもまた乱暴なお言いようかも知れぬ
鼻息の荒さでおいでだったお嬢さんたちで。
現場からの尾行がつかないようにという、
念のためのワンクッション、
こたびは ホテルJ系列の終夜営業のファミレスへと寄り、
個室を借りて着替えた今は。
ちょっと落ち着こうとばかり、
こんな時間でもお薦めの、
ハーブティーとお好きなスィーツをセレクトというセットで
火照った気心ゆるゆると冷ましつつ、何とか一息ついておいで。
少し小高い場所にあるお店の、夜更けというこの時間帯の売りは、
それは大きな窓から望める都会の夜景。
照明もさほど煌々とは灯されてもないシックな店内の一角で、
動きやすさとそれから、やや蓮っ葉に見えること優先だった
ネオンカラー使いまくりの
ホットパンツやタイトミニとスパッツ…なんていう いで立ちから。
大人しめのフレアスカートや、
初夏向けサマーニットのインナーに
軽やかで透け感のある素材のジレなんていう、
少しは品のある恰好に落ち着いての さて。

 「話の内容は聞こえてたらしいですよ。」

七郎次の携帯へ勘兵衛からの連絡が入り、
それへは おおとお顔を輝かせつつ、三人で小さく微笑んだ彼女らで。
元々さほど弾けた暴れ者って人物でもなかったようで、
それが…あんな荒ごとに揉まれの畳まれのした挙句、
色んなコネ持つ政治家の大物に目をつけられてしまった…と吹き込まれちゃあね。

 「見るからにビクビクしているから、
  余計なことは口走りそうに無さそうだって。」

まま、余罪としての供述をしたとしても、
たかだか置き引き窃盗犯。
ニュースで扱われても小さいものだろし、
別件らしき証拠品、大量の下着も出たそうなので、
こちらの彼女の被害は なかったことには出来ないまでも、
世間的な露見という意味では埋もれてしまうに違いない。

 「まぁね。これ以上の先は、彼女の問題なんだしね。」

アドバイスくらいは出来るし、
事情を知る者として、辛くて泣きたいなら胸を貸すことも出来るけれど。
どうするのかを決めるのは、あくまでも当事者だものねと。
さっきまでの揮発性の高さはどこへやら、
口を噤めば溜息しかこぼれぬ気分の、
初夏の花々、三華様がただったりするのだ。




     ◇◇◇



防犯カメラで撮られた映像には
やはり何処にも侵入者と思しき存在などなく。
誰ぞかによる学園内への潜入ではないらしい
というのが明らかになったのでと。
特別な対処を取ったその中で判った、意外な事実が一つ。
そして、

 『…これって、
  警察が乗り出すと波風立つかも知れません。』

判明した事実の確認を取って来るからと、
七郎次や久蔵も、
制服からここで着るのにと置いていた普段着に着替えた上で、
平八ともども八百萬屋を後にして。
しばらくしてから、勘兵衛へと連絡して来た七郎次の開口一番が、
少々沈んだお声での先の一言。

 『さようか。』

一応は生活安全課の処理としつつも、
実際は佐伯さんが ネットオークションで取引したのは、
20代半ばの男だそうだから。
女学園の内部じゃあなく、
自宅かどこかで盗まれちゃったらしいのは明らかで。
なので、持ち主らしきお嬢さんへ“盗品”を返却する折も、
こういう供述している窃盗犯がいるのだがと、
遠回しに持ってゆくからと勘兵衛が言ってくれたが、

 『いえ。そういう、公的な対処の話じゃなくて。』

供述を取ってから…という順番にしない“即日返還”なんていう、
被害者最優先の、随分と破格な扱いを考えてくれているのは
重々判っておりますがと。
困ったように眉を下げたのだろうと、ありあり感じられるお声の七郎次は。
たとえ女子高生に転生していなくとも、
この辺りの機微には聡かったかも知れぬ。

 失くした制服が出て来たというだけなはずが。
 それへと付随する 意外なことまでも、
 他の誰かに知られたなんてと、
 それだけで“彼女”は ひどく傷つくに違いない

その発端やら何やら、色んなことまで追及されないか。
されなくとも…知ってしまった人はいて。
褒められたことじゃあないその上、
一般には認められぬこと、
そんな異常なことなんてとこそこそ詮索されないか。
ああやはり罰が当たったんだ、自業自得だけれどそれでも…と。
その“彼女”が、見えないいろいろ、
主には自分の中の罪悪感が変化したものから、
ひどく責められての憔悴してしまわないだろか……。

 七郎次や平八、久蔵としては、
 そこが案じられてしょうがなくって。




     ◇◇◇



思えば、誂え品だからこそ仕込むことも可能なもの。
名目としては整理番号、
だがだが 実際の実態はむしろ、
万が一にも盗難に遭った末にとんでもないところから出て来たならば、
責任の所在を明確にするため、
本来は誰の物かをはっきりさせつつ、
どういう“流通”を辿ったかを追跡出来るようにという

 解釈はいろいろ出来そうな、
 イマドキ流の迷子札こと シリアルナンバーが

女学園の生徒の皆様には必須の、
制服、並びに 特注お道具用品のあれこれのどこかに、
こそりと記されてあるという。

 「スカーフだと、ここですね。」

島田警部補からのメールで呼び出された佐伯刑事が、
問題の現物を持って来て下さったのが、
10数分ほどしかかからぬ超特急便であったので。
では、ここからは私たちだけでと、
ただちに平八の私室へ引きこもったお嬢さんたちであり。

 『女学園の極秘資料、たとい警察関係者にも見せられません』と、

ここだけは譲れないとしての鑑定作業に入る。
まずはと机の上へ広げられたのは、
濃色のサテンシルクの一枚布を仕立てたスカーフで。
しっかりと厚手なので多少濡れた程度では歪みもしない上物であり、
品質保証と取扱説明の小さなタグが、
縁かがりの手間のついでに隅っこに縫いつけられている。

 「これにはないなぁ。」
 「きっと外しちゃったのね。」

半分に折って使う折、背中の垂れにちゃんと隠れるのだけれど。
それでもはみ出さないかと気にするお人は、
縫い目に沿ってハサミでちょんと切って外してしまわれる。

 「アタシもTシャツなんかの後ろ襟のタグは、
  モノによっては時々外しますね。」

気になってしょうがないからと七郎次が言い出せば。
久蔵もうんうんと頷いて見せたれど、

 「でもでも、そうなっていても大丈夫ですよ。」

縫い目の中に僅かほど居残った端切れを、
先の細いピンセットで縫い目の隙間から慎重に摘まみ出し。
くるんと丸まりかかるのを、
黒いプラ板へ張りつけると拡大鏡で番号を確認。
それを、PCへと呼び出してあったとあるプログラムの、
入力欄へ“かたかたた…“とインプットすれば。
さして待たされもしないうち、一覧表が現れて、
その中の一行がカラリングされてピックアップ状態になっている。

 「えっと、………え?」

何年何組、生徒番号と氏名のみならず、
住所と連絡先の電話番号に、本人と親御のメアドまで。
これが世間へ流出したらば、なるほど困りものだろうという、
生活に必須の個人情報が呼び出されていたのだが。

 「どうしましたか、ヘイさん。」
 「いえね、ほら。」

そこにピックアップされていたのは、
特に何かしら注意の要るような但し書きもない、
ごくごく普通の生徒であるらしい存在のデータ。
しかも、

 「あら、バレー部じゃないですか。」

クラブハウスの異変話の中で出て来たところだと。
意外な共通点が飛び出したことへ まずは気づいたものの、

 「……あ。」

どうして平八がおやと注意を留めたのかといえば、

 「一年生?」
 「ええ。」

あれれぇ? でもセーラー服には青い校章が縫い取られておりますよ?
そうなんですよね。
どこかでごちゃまぜになってるところを一緒くたに掠め取られたとか?
そうと思うところじゃあありますが、

 「これって、
  着替えてて置いてあったのを盗まれたんじゃなさそうだって、
  結論が出てなかったですか?」

 「う…。」

部室での紛失ならば尚更に、
皆でいっせいに着替えるのだから、それだと誰も気づかないのは不自然だと。
隠しても意味はなく、届けが出ていそうなものだと、
そんな結論に達してはいなかったか。

 「朝練とか、一人で特訓とか…。」
 「スペアはどうします?
  体操服で帰るなんて、そりゃあ目立ちますよ?」

疚しいことはなくたって、
どうされたのかとシスター辺りから聞かれること請け合いだ。

 「濡らした汚したなんて言い訳をしたとして、
  だったら乾かしてあげましょうと、
  慈愛の手を延べられるのがオチです。」

いやに具体的な“例えば”だったのへ、

 「…さては経験あるな、ヘイさん。」
 「いやいや、あのその…。///////」

またぞろ脱線しかかって。(笑)

 「セーラー服だけ手に入ったものの、スカーフがなくてとか?」
 「え〜? こういうのって一緒に揃えて仕舞わない?」

どうかな?どうだろと、今一つ馴染みのいい答えが出ないまま、
う〜んんと首をひねってしまった ひなげしさんと白百合さんだったが、

 「セーラーの方。」
 「あ、そか。」

答えの見えぬ推理をごにょごにょ言ってるよりも、
それで明確に判明するものがあるのだ。
シリアルナンバーから そっちも誰のかをはっきりさせた方が早いかも。
紅ばらさんの落ち着いた指摘にハッと我に返った二人であり、

 「えとえっと、上は 背中側のここの折り返しに。」

裾の折り返しの内側にあるとのことで。
小さめのハサミで縫い糸を慎重に切りほどき、
濃色の生地の上、小さな小さなやはりタグがあるのを見つけると、
そこに記されたシリアルナンバーを 先程同様に入力してみたものの。

 「…う。こっちは別の、現二年生だ。」
 「え? これって一ノ瀬さんじゃないの。」

液晶画面を覗いた七郎次が
息を引くよにして、ますますのこと驚いたのも道理で。

 「彼女こそ、
  さっきの話の、部室に違和感があるって言ってた本人、
  バレー部の主将さんだよ?」

 「……?」
 「おや。」









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  *書いても書いても終わりません。
   変だなぁ、あちこちへの脱線のし過ぎかなぁ。


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